東日本大震災からもうすぐ半年。
テレビや新聞では大震災関連のニュースも流れなくなり、日常が戻ってきました。 日常が戻るのは大変すばらしいのですが、大震災を忘れてほしくないので、今回も震災関連のお話をいたします。 半年前、どれだけ大変だったか、思い出しながら読んでいただければと思います。 停電中の酒造りについてお話します。 東日本大震災が起き、その後一週間近くはテレビも特別報道体制で、通常の番組は放送されず、毎日大震災のニュースが放送されていました。 次第にわかってくる死者の数、津波の映像、福島第一原発の爆発の映像、悲惨な映像のオンパレードで、この大震災がどれだけの災害だったか、あらためて痛感した一週間でした。 蔵の方は、停電が二日くらい続きましたので、その間は仕込みはもちろんできませんし、それ以上に、麹室に麹が入っており、その麹を捨てるわけにいきませんから、電気が無い中、必死の麹づくりが行われました。 麹室は通常室温を30度から35度に保っておりますので、電気が使えないと保温が出来ません。 すぐに、昔の灯油で火を燃やしながら使うダルマストーブを用意して、麹室に入れました。火も電気でつけるものではなく、マッチを使ってつけるタイプの昔のもので、これを使いながら温度を保持し、麹つくりを続けました。 この昔ながらのダルマストーブをすぐに用意できたのは、実は今年のお正月の大雪での大停電の際に使っていたため、すぐに用意することが出来ました。あの大雪の大停電がなければ、このようにすぐにストーブを用意することはできませんでした。 しかし、ダルマストーブは非常に危険で、酸欠の恐れもありますし、とても危なく、誰かが必ずそこについていて、火の管理をしなければいけません。24時間体制でずっとつきっきりで火の管理と温度管理をしながら、何とか大震災前に入っていた麹をつくりあげました。 しかし、蒸米をするにも電気が必要で、このままではせっかくつくった麹も無駄になってしまいます。心配していたところ、何とか電気が通り、無事にこの麹を使って仕込みをすることが出来ました。一安心したところにまた追い打ちがかかります・・・ 電気も通り、仕込みも無事に再開したのですが、ここでまた問題が起きました。 蒸米をするためには、ボイラーを使って蒸気をつくるのですが、このボイラーは重油で動いています。 通常ならば、2週間ごとに重油を入れてボイラーを動かしていますが、このボイラーを動かす重油の基地が今回の大震災で被災し、重油の供給が難しいという話になりました。 計算してみると、うちの重油は通常の状態で仕込み、火入れ、ビン詰を行った場合、あと10日で重油が無くなってしまう、というシュミレーションが出てきました。 このままでは、仕込みが継続できない、という事がわかり、急きょ瓶詰め、火入れなどをストップして、仕込みだけにボイラーを使うようにしました。 重油の会社に連絡を入れて、いつごろ供給が可能になるか何度聞いても「未定」を繰り返され、節約をいくらしても見通しが立たない事から、蒸米の時間にまで手を付けざるをえませんでした。 通常ならば、約1時間程度蒸米をするのが良いのですが、これを10分ずつ短くしていきます。50分、40分・・・その分、米への吸水を少しずつ多くしていきます。最終的に20分まで短縮し、何とか重油を少なく使うようにしていきます。 重油の供給が開始されても、最優先は沿岸部の被災地で、そちらへ先に供給が始まります。うちのような企業は後回しになります。それでも何とか2週間ちょっとで重油が入ってきて、仕込みを中断することはありませんでした。 なぜ仕込みを中断したくなかったかというと、酒母をもう震災前につくっているので、それが全て無駄になり生きている酵母を廃棄して殺してしまわなければいけなくなるので、どうしてもそれだけは避けたく、仕込みを続けることにこだわりました。 このような苦労で何とかお酒は生まれてくることになります。しかし、まだまだ困難は続きます・・・ 重油が何とか供給され始めましたが、問題はまだまだ続きました。 それは同じくエネルギー問題で、従業員が通勤するためのガソリンが全く無い状態が続きました。 ガソリンが無い、ということは、田舎に暮らしていれば、「何もできない」につながり、通勤できない人が多数南部美人以外にも出てきました。 このような状態になるのが目に見えるほど、ガソリン不足が続いたため、蔵のスタッフは、大吟醸の仕込みの時のように、蔵に泊まり込みを決意し、酒造りを家族よりも優先して行ってくれました。 二戸市も大きな地震の揺れで、小さな子供を持っている蔵人は、まだ子ども達が夜も眠れないくらいショックを受けている中、家庭よりも酒造りを優先してくれました。 本当にありがたかったです。私はもちろんスクランブルで蔵に泊まり込んでいましたが、私一人では酒造りは出来ません。チーム南部美人が一つになって、初めてこの困難を乗り超えることが出来ました。 それ以外にも、様々な困難があった中、出来上がった今年のお酒は、いつもよりも感慨深いものがあります。 このようないつも以上の苦労をして造ったお酒を、ぜひ世界中の方々に飲んでいただきたいという思いは、本当に強いものがあります。 ぜひ皆さんには、特別な年である今年のお酒を楽しんでください。 それが東北の酒蔵にとって最高の応援になりますので。 頑張ろう!東北!!
by wajowaraku
| 2011-09-02 09:33
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